ローカルアイドルは大都会の夢を見るか? ー地下鉄ラビリンスから見るWUGの東京論ー
1.はじめに
みなさんのWUGで一番好きな歌はなんですか?僕はぶっちぎりで地下鉄ラビリンスです。元々こういうノリノリのメロディは大好きなんですけど、この曲はそれだけではなく歌詞が魅力的であり一気に惚れ込んでしまいました。今日はそんな地下鉄ラビリンスをWUGの映画を見て思った事なり普段考えてる東京の事だったりいろいろを織り交ぜて考えていきたいと思います。
2.メタファーとしての地下鉄
まずこの歌は大都市(おそらく東京)の複雑な地下鉄網をメタファーにすることによって彼女達の人生を説得力ある形で描いています。その証拠となるのは次の部分です。
満員電車 それが人生の縮図なのかな 不安になる
パッと聞いただけでは地方から出てきた女の子が大都市の地下鉄に乗るときにとても戸惑ったっていうだけの歌。だけどそうじゃない。地下鉄で迷う事、それが人生の岐路において迷う彼女たちの状況のメタファーになってる。まさにこのメタファーの使い方の巧さが地下鉄ラビリンスの大きな魅力の一つであり、読み解く上での重要な核になります。
3.ほとんどが地方のカケラで作られた巨大都市
この言葉はタモリが東京という街を一文で定義するとしたらというコーナーで回答した物です。東京という街は江戸っ子と言われる江戸時代からの住民の多くですらアメリカンドリームならぬ江戸の夢を求めて地方からやってきた商人がほとんどです。そして戦後はその傾向が更につよくなってきます。進学就職で地方からやってきた人たちやその子孫が東京の住民のほとんどなのです。なんでこんな話をしたのかというとWUGの7人(東京に元々住んでいた方もいましたが)も地方から東京にやってきた人たちだからです。この歌にも地方と東京*1という構図が色濃くでています。例えばこの部分です。
都会育ちじゃないもん
みんな ほとんどそうでしょ?
洗練されたい気持ち
迷路でこじらせた
洗練されたいと思って地方から東京に来たわけですが、実際は地方のお芋のままですぐに行き詰まってしまいます。東京を我が物顔で歩いてる"みんな"だってほとんどは地方から出てきた人のはずなのになんでと気分が落ち込みます。
でも、そんな泣きそうな彼女たちにも手を差し伸べてくれる人がいます。*2
ひとりきり泣きそうな時に
たすけてくれたあのひと
救いの神が見えた 友ができた
そうだねここで 頑張ってくよ
(find the exit!)
冷徹なこの街にも手を差し伸べてくれる人はいてその人のおかげで迷路の出口が見つけられました。まだまだ迷いながらでも地下鉄ラビリンスを彼女たちはまた歩き始めます。
4.なんでも受け入れる街
僕は名古屋(の郊外)に住んでいましたが名古屋というのはどこまで行っても名古屋です。別に名古屋が珍しいわけではありません。大阪だって京都だってどこでも大抵は同じ都市なら同じ街です。
でも、東京だけは違います。例えば東京と一口に言っても浅草、末広町(アキバ)、銀座、青山一丁目、渋谷では同じ路線*3の沿線にあってもとても同じ街とは言えないぐらいそれぞれにキャラが立ってる街です。でもこういう全然違った街を一まとめにしてできた都市だからこそ、なんでも受け入れてくれるという安心感が生まれると思います。それはこの歌でも2番のサビで歌われています。
さぁ ひとつひとつ駅のキャラや場所
のみこんでいくように
さぁ 行こう 私もこの街に
ぎゅっと のみこまれていく未来
この都市は全然違った街(駅)のキャラを飲み込んで成り立ってる。だから私たちもきっとここなら認めて貰えるよね。泣きそうで立ちすくんでいた彼女たちもその事に気付いて変わり始めます。
まだ自分ではカフェにさえ入れない 緊張して
そんなまだまだ芋臭い彼女たちですが出口を見つけて悲観する事はやめています。
ゴージャスなエリア行く頃は
大人になれているかな
それでもきっとずっと恋しいでしょう
ふるさとの味 家族の時間
(find the my way!)
大人になって東京で成功しても、地方のふるさとが家族が恋しいままでいい。ある意味憧れてた洗練された姿とは違うかもしれませんが、彼女たちは東京の多様性の元にこのような自分の道を見つけることにそしてそれを歩みだすことに成功したのです。*4
5.先頭車両から見える景色
そんな自分の道を見つけた彼女たちですが東京で成功することを諦めたわけでは決してありません。彼女たちは1番のサビと大サビで高らかにこう歌い上げます。
ね 一番前の風景が見たい
ぐっと 夢を胸に抱いて
ね 迷いながらも進んでく
そうだ 地下鉄ラビリンス
きっと先頭車両は凄まじい混雑で一番前の風景なんてなかなか見れない。それでも夢を抱いて一番前の風景が見たい。迷いながらでも決して諦めないで進んでいく、そうだそれが人生(地下鉄ラビリンス)なんだ。
そして、アイドルの祭典に再度出場して優勝した彼女たちにとって風景は心でしっかりと見える景色に変わっていきます。
run…いちばん先の
run…景色が見たい
run…夢をいだいて
run…地下鉄ラビリンス
WUGの地下鉄ラビリンスはこれからもまだまだいちばん先の"景色"を求めて続いていくでしょう。
6.地下鉄ラビリンス
『火花』で芥川賞を受賞した又吉直樹は東京という街について著書『東京百景』の「はじめに」で次のように語っています。
東京果てしなく残酷で時折楽しく稀に優しい。ただその気まぐれな優しさが途方も無く深いから嫌いになれない。
地下鉄ラビリンスの中で彼女たちが東京に抱いた気持ちも似たような物なんじゃないんでしょうか。もしこれが他のアイドルの東京論だったら人混みに流されそうになるのを楽しいと言えたり、街中がカラフルサウンドを広げる七色スピーカーと言えたりするかもしれないですが、WUGにとってはブリッジ部分に次のような歌詞があるようにずっとラビリンスのままなんです。
最短距離じょうずに行けない
ちゃっかり乗りかえたりできない
割り込んだりなんかもしたくない
経路がスマートとかわかんない
歩行中の検索は危険
こまったらあせられないで止まれ
不器用だから回り道だらけで、引き際も分からなくなって*5、それでも真面目で、いま歩んでる道が正しいのかも分からなくて、それでもがむしゃらに走り続けちゃうから転びかけて、まだまだとても洗練されてるとは言えませんがそれでもそれでも立ち止まりながら進んでいく。そして、いつか自分が貰った気まぐれな途方もない優しさを誰かにあげられるように。
ひとりきり立ちすくむ時に
たすけてくれた優しさ
鼻歌がでる頃は 街に慣れて
優しさ ひとに あげられるはず
WUGが見た東京はいい物ばかりじゃありませんでした。ガラガラのa-nation(作中の表記を忘れる)や手売りしても見向きもされないCD。それでもまだ東京に受け入れられる事を信じて前を向いてつまづきながらも進んでく。地下鉄ラビリンスはそんなWUGの魅力が溢れる1枚なんだなと思います。
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